sweet!



「お土産でもらった塩キャラメルムースがすごく美味しかったんだ」

満面の笑みを浮かべながらお菓子がらみの会話が出たら、その帰結は決まっている。

「だから作って」



袋に入ったクッキーを麺棒でガンガン砕く。

絶対作ってくれると疑わないことに腹が立つ。
けれどその疑わない笑みに逆らえない自分にもっと腹が立つ。
お菓子を作るのはかなり好きだ。
作ったお菓子を美味しく食べてる人を見るのも。
けれどこうも頻繁にお菓子ばかりをねだられると、自分自身ではなくお菓子を作る腕を好かれているのではと拗ねたくなる。
その鬱憤を晴らすとばかりにクッキーを叩いて少しだけ気分が晴れた頃には、クッキーは細かく砕けて粉のようになった。
そこに溶かしバターを混ぜてトレーに並べたセルクルの底に力の限り硬く敷き詰め、冷蔵庫に放り込んで、砂糖の入った鍋を火にかける。
白い砂糖がゆっくりと溶けていく様を眺めながら、最初に作ったのはプリンだったと思い出した。
初めて家に遊びに行く時の手土産に手作りなんて引かれるかと思ったけれど、市販のものでは何となく誠意が感じられない気がして、母親に押し付けられたとか何とか言い訳まで考えてた頃が懐かしい。
今ではリクエストの嵐だ。
砂糖が濃いカラメル色になったので、火を止めて熱湯を入れる。

あ、底の方にカラメルが固まって、色の濃いべっこう飴になって残った。

どうしようかと迷ったがそのまま生クリームと塩を入れてもう一度温める。できるだけべっこう飴の周りを木ベラでこすって、溶かす努力をしていたら底から剥がれた。
まあいいや。
沸騰しそうになっている鍋の中に、ゼラチンを投入してゆっくり混ぜる。
このまま溶けてくれればよし。溶け残っても、手作りの醍醐味と笑って許容してくれる事は想定済みなので問題なし。

ふむ。
これを許容してるあたりに、自分も愛されていると自惚れていいのだろうか。

本当はボールに移して荒熱をとるらしいが、面倒なので冷凍庫から出したアイスノンをタオルで包み、その上に鍋を置いてまた混ぜながら少し冷ましてから、更に生クリームを追加する。
そのうちとろみが出てきて混ぜる木ベラに抵抗を感じてきたので、冷蔵庫で冷やしたセルクルに流し入れて再度冷蔵庫に入れればおしまい。



「晃君、大好き」

蕩ける笑顔はスプーンを口に入れてから。

「大好きなのは俺じゃなくて、塩キャラメルムースだろ」
「え?」

一瞬きょとんとした彼女が、へらりと笑った。

「やだなー。晃君が作ってくれたムースだからめちゃくちゃ美味しいくて幸せなんだよ」

ああ、これだから。
情けないほど単純に俺の頬までゆるんでしまう。
男がお菓子作りなんて人には言えないけれど――――君のためならどんだけでも作りましょう。




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